世界のアーティスト・イン・レジデンスから|NY社会実践型レジデンシー  KODA編 

  • KNOT
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, 18:30 – 20:30
YAU STUDIO
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PARADISE AIRのスタッフは、他のアーティスト・イン・レジデンスやアート施設を訪問した後、そこで見聞きしたり感じたことを必ず他のスタッフに共有しています。 その際、スタッフ以外のどなたでも参加して報告を聞くことのできる場として開いたのがこのイベントシリーズ”世界のAIRから”です。

今回はニューヨーク編。ゲストにお迎えするのは、社会実践型レジデンシー「KODA」の創設者であり、キュレーター、戦略コンサルタントとして活躍する Klaudia Ofwona Draber さんです。
KODAはニューヨークを拠点に、中堅アーティストに特化したプログラムを運営し、社会正義や環境問題など現代社会の課題に取り組むアーティストを支援してきました。Governors IslandのKODA Houseを拠点に、リサーチから制作、発表までを包括的にサポートする活動は、国際的にも注目を集めています。
またKlaudiaさん自身は、Whitney MuseumのISPフェロー、Sotheby’s Institute of Art教員、UBSでのアートCSRやBritish Council Artsのコンサルタントなど、アートと社会・ビジネスを横断する幅広い経験を重ねてきました。現在はArtTable理事、NEW INCメンターとしても活動中です。
今回は、そんなKlaudiaさんに、KODAを立ち上げた背景や活動の現場、そしてアートと社会をつなぐ実践についてお話を伺います。これから海外レジデンスに挑戦したい方、アートと社会をどう関係づけるか関心のある方にも、ヒントの多い時間になるはずです。

 

世界のアーティスト・イン・レジデンスから|ニューヨーク編
日程:2025年9月17日(水)
時間:18:30 – 20:00
登壇:Klaudia Ofwona Draber(KODA Founder / Curator / Strategist)
モデレーター:森純平
参加:無料
言語:英語のみ
会場:YAU STUDIO
会場協力:有楽町アートアーバニズム YAU

 

世界のアーティスト・イン・レジデンスから|NY社会実践型レジデンシー KODA編

創設の背景と移住の経緯

今回の「世界のAIRから」では、ニューヨークを拠点に社会実践型レジデンシー KODA を立ち上げたキュレーター/戦略コンサルタントの Klaudia Ofwona Draber さんをゲストに迎えました。Klaudiaさんはポーランド出身。幼少期からダンスや音楽に親しみ、芸術が身近にある環境で育ちました。大学では経済学を専攻し、修士論文ではポーランドのアート市場をテーマに研究。さらにニューヨークのSotheby’s Institute of Artでアート・ビジネスの修士号を取得し、在学中の修士プロジェクトとしてKODAのビジネスプランを構想しました。職歴も多彩で、建設やIT、金融分野でプロジェクトマネジメントを担い、UBS勤務時にはCSRの一環としてアート関連プロジェクトに従事。British Councilでは世界中の美術品コレクション管理システムの刷新や、各国のプログラムマネージャーの業務標準化を推進しました。2007年の初訪問以来憧れていたニューヨークに移住したのは、「人種的に際立ってしまう」ポーランドでの生活と違い、多様性の中に自然に溶け込める感覚があったからだと語ります。加えて夫がミュージシャンであることから、ジャズが息づくニューヨークは創造的な生活基盤として魅力的だったとも話しました。こうした経験が積み重なり、2019年12月23日にKODAを正式に設立するに至りました。


中堅アーティストへの支援と社会正義の実践

KODAが取り組むのは、若手(emerging)や著名(established)のアーティストに比べ支援が圧倒的に少ない mid-career artists(中堅アーティスト) へのサポートです。ニューヨーク湾に浮かぶガバナーズアイランドに拠点「KODA House」を持ち、毎年春と秋に2名ずつ、計4名のアーティストを3か月間受け入れています。スタジオには水道がなく共有トイレを利用する必要があるなど環境は簡素ですが、その代わりアーティストが制作や読書、リサーチなどを自由に行える場として機能しています。アーティストには1,000ドルの謝礼金、200ドルの専門能力開発費、250ドルのパブリックエンゲージメント費が提供され、最低限週5時間以上の利用が求められますが、「思考の時間」を重視しており、制作を必ずしも強制しない柔軟さが特徴です。週末はスタジオを一般公開し、来場者との交流を行うことも奨励されています。これまで「土地と環境」「女性の権利」「人種的正義」「メンタルヘルス」など社会課題をテーマに取り組んできており、現在は「平和構築(Peace-building)」を進行中です。展覧会ではグループ展に埋もれることなく一人の作家の歩みに焦点を当てる ソロ・サーベイ展 を重視。倉庫に眠っていた過去作と新作を並べることで、アーティスト自身が新たな発見を得る機会をつくっています。教育面でも積極的で、MoMAと協働した「Arts Administration Fellowship」を立ち上げ、芸術行政を学ぶ学生を育成。さらに毎年のシンポジウムには400人以上が参加し、オンラインや大学連携による講座も展開されています。


組織運営と資金調達の工夫

KODAの理事会は7名で構成され、その半数がアーティストというのが大きな特徴です。ニューヨークではアーティスト自身が理事を務めることは珍しく、「アーティストのニーズを最も理解できるのはアーティスト自身」という理念を具体化した形です。運営は創設者のKlaudiaさんとプログラムマネージャー、数名のインターンという小さなチームで回されていますが、資金調達は多様な方法を組み合わせています。設立初期は大口寄付に支えられ、その後は理事会からの寄付、民間財団の助成、ニューヨーク市文化局や州芸術評議会、個人寄付などを重ねてきました。ニューヨークでは公的助成金を受けられるまで時間がかかるため、民間資金からスタートするのが一般的だそうです。最終的には年間50万ドル規模の非営利団体として、アーティスト一人ひとりに十分な資金と機会を提供できる体制を目指しています。質疑応答では、日本のレジデンシーとニューヨークの違いについても意見が交わされました。ニューヨークではアーティストが会場費を自ら負担するケースも多い一方、日本では無償で場が提供されることが多い点にKlaudiaさんは驚きを示しました。また、滞在費や渡航費を一機関がすべて負担するのは非現実的であり、複数の機関の協力やアーティスト自身の工夫を組み合わせるモデルこそ現実的だと強調しました。


「1800 Happy Birthday」と今後の展望

KODAの活動と並行して、Klaudiaさんは独自のキュレーション活動も展開しています。その代表例が大規模展覧会 「1800 Happy Birthday」 です。この展覧会は警察によって命を奪われた12人の人々を追悼するもので、都市から払い下げられた電話ボックスを会場に設置。来場者は受話器を通じて、犠牲者の友人や家族からの誕生日メッセージを聴くことができました。個人的な記憶を社会的な問いへとつなぐこの作品は強い反響を呼び、約50万ドルという大規模な予算のもと実現されました。レジデンシー運営にとどまらず、社会とアートを結びつける実践を幅広く手がけていることが伝わる事例です。

今後はMoMAとの連携強化やポッドキャスト配信、ニューヨーク市郊外ロッカウェイズでの新しいリトリート拠点、さらにポーランドの自宅を拠点としたレジデンシー、ケニアでのプロジェクト立ち上げなど、国際的な広がりを構想しています。日本や南フランス、スペインとのコラボレーションにも強い関心を示しており、三拠点をつなぐ国際的な交流ネットワークの形成を目指しています。「Smaller is stronger(小さいからこそ強い)」という言葉どおり、規模に左右されない柔軟な活動を武器に、中堅アーティストの支援と社会正義を掲げるKODA。その挑戦はニューヨークの苛烈な環境の中で進化し、世界へと広がりを見せています。

2025.09.18

PEOPLE

クラウディア・オフヴォナ・ドラベル

Klaudia Ofwona Draber

2025.09

クラウディア・オフヴォナ・ドラベル
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